コントラバスのジャーマン式弓は、一見どれも同じような形をしてるが実は奥が深い。 今回は「弓先」に注目する。 まずは、Bernd Dölling(ベルント・デーリンク)。デーリンクは、マルクノイキルヒェンに工房を構える有名メーカーで、価格帯はプレッチナーやホイヤーより安く、しかし取り回しの良い弓を作るので、ドイツではgünstig(コスパの良い)弓の代表格である。現在はベルントの息子のミヒャエルが作っていて、先代より評判が良い。 僕の所有しているデーリンクはベルント作の3つ星、典型的なデーリンクの形。デーリンクの弓先は、エレガントな流線形で、弓の棹(Stange)になだらかにつながっている。僕はこの弓を「ほとんど見た目で買った」と言っても良いほど、見た目を気に入っている。木材は非常に身の詰まったフェルナンブーコで重量があり、137gだ。 弓先が棹と斜めにつながっていることにより、弓先の剛性が非常に高くなっているように思う。弓先と棹の間に補強が入っているような感じだ。 そのため飛ばし弓(スピッカート)をしたときに棹がたわまないため、音が短くなりすぎる傾向がある。デーリングを買う際は、あまり固すぎない弓を選んだほうが使いやすい。 続いて、プレッチナー。言わずと知れた老舗で、生産数や信頼度はNo.1と言える。しかし1970年と80年の度重なる会社の分裂、フェルナンブーコの枯渇などにより、近年のものの中で良い物を見つけるのは簡単ではない。戦前のH.R.Pfretzschnerの弓は、プレミア価格がついており、世界中のコレクターや奏者がハンティングしている。そのほかにも何かと話題が尽きない名門ブランドだ。 僕が所有しているのは、テオドア・ヘルマン・プレッチナー作(T.H.Pfretzschner,1915 - 1979)で、127g、約60年前の弓だ。 形状は典型的なプレッチナーで、特徴としてヴァイオリン弓のように、弓先が独立していて棹とはほぼ90度で接している。このため棹がしなりやすく、よくたわむのでオケが弾きやすい。これが人気の秘訣ではなかろうか?また棹が非常に細くなっているのもこれを助ける。小回りが利き、音も良い。この類の弓は、軽くても十分に楽器を鳴らすことができる。 ホイヤー。F.Günter Hoyer。シンフォニーオケ奏者に人気の弓。一部の弓に詳しい人達からは「ただの棒きれ」と酷評されることがあるほど、ボテッとした見た目である。そのため極端なプレミア価格が付くことは少ない。しかし奏者の需要が高いこと、そしてオケで酷使されていることが多いため、程度の良い個体を見つけるのは非常に難しい。 チップの形は、ハイブリッド型で、ブーツ型のチップがやや斜め向きに棹に接している。現在は、ヴィリー・ホイヤーが製作していて、過去のイメージの払拭と新しいモデルの制作に取り組んでいる意欲的なメーカーだ。しかし、値段が大幅に上がってしまった。(木材価格が上がっているので仕方ないことだが。)ヴィリーのものは内側が丸っこく、祖父ギュンターの作はもう少し鋭角だ。 見た目がなんであろうと、弾きやすく、太い音でオケで音色が溶けやすい。 ※工房への訪問記が過去のブログに ノイドルファー、Rudolf Neudörfer。もとはチェコの一家だが、戦争の混乱やドイツ東西分裂を逃れてBubenreuth(ブーベンロイト)というバイエルン州の小街で製作している。ブーベンロイトは、西のマルキノイキルヒェンとも言われ、東ドイツ時代のマルクノイキルヒェンから多くの制作家がこの地に引っ越してきた。ヘフナー、ザイフェルト、デルフラーもこの地に社を構えている。 ノイドルファーは非常に精巧なつくりで、弾きやすく、音も良い。それでいてブランド料がない分安いという素晴らしい作者だ。 なお、R.Neudöfer とRudolf Neudörferの二種類のスタンプがあるが、「特に大きな違いはない(本人談)」とのこと。 チップはややプレッチナーよりで、弾き心地も似ている。 もちろん個体差も多いにあるので、参考程度にしてください!
コメント