2022年10月にイタリアで国際ボッテジーニコンクールに参加した。コンクールについてはまた後日。
今回はコントラバスを衝動買いした話である。
コンクールはボッテジーニの生まれ故郷であるCrema(クレーマ)で行われた。クレーマはイタリア中西部ロンバルディア地方にあり、ミラノからは車で1時間くらいだ。隣町にバイオリン制作で有名なクレモナがある。
コンクール最終日には楽器や弓の展示会があり、製作家や松ヤニ職人、弓コレクターなど、ありとあらゆる人が来ていた。
私はドイツの弓コレクターの大量のPfretzschner弓を試奏させてもらっていた。1930年製で彫刻が施されたものは、音色も抜群、操作性も素晴らしい超一流品であったが、新車が買えるくらいの価格であった。その他の20ー30年くらい前のものであれば、4500€くらいであった。
そう。コントラバス弓も値上がりしているのだ。まぁ良い物はあるが、いかんせん高い。
と、色々と試奏しているうちに、ふと楽器が良いことに気づいた。
楽器は隣のブースにあったものを借りていたのだが、新作にも関わらず、まろやかで品のある音色、十分な音量、そして多彩な表現がきる楽器であった。
それからは弓どころではなくなり、ひたすら楽器を弾きこむ。
家に一度帰って、自分の楽器と弓を持ってきて弾き比べをする。
良い。
紛れもなく良い楽器である。
I need this sound.
と言って、いつのまにか購入交渉をしていた。
話はまとまり早速翌日、ピックアップ。
Andrea Romanazzoとはこの時から友情が結ばれた。
彼は元はミュージシャン。現在はローマ近郊で工房を開いており、調整や修理を手掛けている。プロ奏者から信頼され、オールド楽器も多く持ち込まれているようだ。
楽器制作は、この楽器で7本目。
多くはない。しかし彼のサウンドへのこだわりは普通ではない。なぜなら彼はミュージシャンだからである。彼によるpizz演奏は愛情に満ちた素晴らしいものだった。
多くの楽器店が、楽器を半ば工業製品として扱っているのに対し、彼にとっての楽器は、音楽をするためのパートナーなのだ。
そのスタンスが、弦毎に異なるテンションのバランスの取り方、板の厚みによる音響特性や倍音の変化などへの研究に結びついている。
・フランス式のペグ配置。
E線がG線よりも上にくる。これにより低音弦の上駒へのテンションが減じられる。
・完璧なネック。
・手作りのテールピース。
こだわりが詰まっており、説明は困難だ。珍しい素材と形状。
・ベンダーBender のエンドピン。
ソケット式のエンドピン。しかも締め付け部を通常のアルミ(黒い物)ではなく、重いブロンズ(真鍮)にしてある。これがエンドピンをガッチリとホールドする。
対してエンドピンはチタンで軽量だ。
もちろん、この美しいニスやボディ形状、板の削り方にもこだわりがあるに違いない。
しかしその全てを私が知ることは不可能だ。ただ結果として出てくる音が良い、と言うことだけで十分である。
なお、彼の楽器には一つ一つ個別の名前が付けられているが、この楽器には、彼の父親の名前が授けられている。
この楽器は現在ヨーロッパに置いている。後日、演奏映像を撮りたいと思っている。
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